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偽文士日碌

八月五日(火):31-32

 赤塚不二夫、死去。おれよりひとつ年下だった。新聞社の取材には
「もう七、八年会っていないし、どうせおれももうすぐあっちへ行く
のだから、特に寂しさはない」と答えたのだが、岡田眞澄の時と同じ
で、自分より若い友人の死は身にも心にもこたえるなあ。
 谷崎賞の候補作を一応全部読んでしまった。選考会直前にもう一度
読み直すことになるだろう。池上永一の「シャングリ・ラ」を読みは
じめる。またしても推薦文を頼まれたのである。この前の「テンペス
ト」の推薦文が気に入られたようだ。たった数十字の文章で、女性編
集者と作家が電話で三十分も盛りあがったという。「週刊新潮」にお
れの推薦文が掲載された大江健三郎「同時代ゲーム」は、アマゾンで
見ると購読者数が一桁はねあがっていた。これもまた、わがことのよ
うに嬉しいが、どうもおかしな仕事が舞い込みはじめたものだ。
 昨夜から伸輔が家族三人で来ている。逗子に住んでいるのだが、東
京の家に来たのでは里帰りという気分にもならないだろうと思い、神
戸の家に戻って待っていたのだ。嫁の智子さんは母親らしいきりっと
した顔つきになり、孫の恒司は今年から幼稚園に行きはじめていて、
無理を言わなくなり、だいぶおとなしくなった。正午前、三人は姫路
市立水族館へ出かけた。恒司、魚が好きなのである。 
 光子は恒司が本にしか興味を示さないので心配している。自分の好
きな偏った本ばかり読んでいると勉強ができなくなるというのである
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